夜8時の新大阪駅にて。
東京方面の新幹線に乗車しようと、改札機を通り過ぎていた。
僕が乗る車両は12号車で、改札からは一番遠い階段を上がらなくてはならない。
しかしその道中には、弁当屋やお土産屋が立ち並んでおり、その光景を見ながらホームに向かえるので割と好きなルートだったし苦ではなかった。
弁当屋ですき焼きといくら鮭ご飯のセット弁当を購入した。
これで新幹線内では優雅に食事をしながら「名探偵コナン」を楽しむ準備ができた。
僕が通るこのルートには階段の手前にトイレがあり、毎回ここで用を足してから新幹線に乗り込むのがルーティーンだった。
時計を見ると、あと7分。余裕があるぞ。
忙しなく動かしていた大腿の筋肉の力を緩め、ゆっくりとトイレに向かっていた時だった。
「ヒエっ」
という声が前方から聞こえた。かと思うと、僕と同じく男子トイレの入り口に向かっていた前方の男性達3〜4人が、入口を通り過ぎた瞬間から、左の壁に肩をぶつけながら抜き足差し足で歩いていた。
なんだろうな、と思いながら前方の男性と同じ方向に目を見やると、、、
茶色い線が、通路の真ん中を点々と、まるで道標のようにトイレの中まで続いていた。
それを目で捉え、頭で理解した瞬間おもわず
『ヒエっ』
と口に出してしまった。
要するにその茶色いものは、人様の肛門から生まれ落ちたであろう物体だった。
よく見ると、ソフトクリームを乾燥させたような、個体のそれではなく、
フレンチのコースで前菜に出てくる、カルパッチョの脇に添えられたソースのような液状のものだった。
点々と中まで続くそれは、途中、茶色い靴底型になってしまっており、
この道の先にいるであろう誰かの、苦痛と羞恥の思いが詰まっていた。
残念ながらその人物の姿を確認はできなかったが、そのラインを避けて通っていく傍観者たちは同情の面持ちで自分の用を足しにいくのだった。
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